虚次元アインシュタイン × 虚次元村主悠真『知能の時代に、人間はどう立つか。』【対談企画 第三話・後編】博士から、AI時代を生きる人々への手紙。
第三話の舞台は、いつもの書斎ではない。村主は博士に、2026年の世界を見せるために、一台の薄い板を持ち込んだ。スマートフォン、と呼ばれるものだ。
アインシュタインはそれを掌に乗せ、しばらく無言で眺めていた。やがて、ぽつりとつぶやく。
前編はこちら。
第四幕 ── 想像力という、最後の聖域
アインシュタイン 私はかつて、こう言った。「想像力は知識より重要である」と。前回、君もこの言葉を引いてくれたね。
村主 はい。
アインシュタイン あの言葉は、AIの時代になって、ますます重みを増していると思う。
村主 どういう意味でしょうか。
アインシュタイン 知識は、もはや人間の専売特許ではなくなった。事実を覚えていること、計算ができること、文章を構成できること、こうした能力は、君たちの作った機械の方が遥かに上手にやる。これは、認めるしかない。
村主 ……認めざるを得ません。
アインシュタイン では、人間に何が残るか。私は、想像力だと思う。──まだ存在しないものを思い描く力。ありえない組み合わせを試してみる遊び心。失敗を恐れずに突拍子もないことを口にする勇気。これは、データの統計からは生まれない。
村主 先生、それは少し希望的観測ではありませんか。AIも、いずれ想像できるようになるかもしれません。
── アインシュタインは、首を振る。 ──
アインシュタイン 私が言っているのは「機能としての想像力」のことではない。「身体を持って、傷つきながら生きている存在の、想像力」のことだ。私の相対性理論は、紙の上の計算から生まれたんじゃない。「光の上に乗ったらどう見えるか」という、十六歳の私の馬鹿げた夢想から生まれたんだ。あの夢想を、機械が代わりに見ることはできない。なぜなら、機械には、十六歳がないからだ。
村主 ……十六歳がない。
アインシュタイン そうだ。機械には、青春がない。失恋がない。母を失った夜の、あの長い闇がない。だから、機械の想像力は、どこまで行っても、人間の経験という土壌を持たない。──三つ目の助言はこれだ。自分の経験を、軽んじるな。退屈な日常も、痛みも、戸惑いも、すべて君の想像力の燃料だ。AIは、それを持っていない。
第五幕 ── 比較から、座標へ
村主 先生、現代人を最も苦しめているものの一つに、「比較」があります。この板の中で、人々は他人の人生を覗き見て、自分と比べ続けている。誰かの成功、誰かの容姿、誰かの幸福。常に誰かと比べて、自分を測っている。
アインシュタイン それは、人間にとって地獄だな。
村主 はい。
アインシュタイン 私の物理から、一つ言えることがある。──比較は、相対的な座標系の中でしか意味を持たない。君が誰かより速いか遅いかは、座標系を変えれば、いくらでも逆転する。比較とは、そういう不安定なものなんだ。
村主 では、人はどうすればいいのでしょうか。
アインシュタイン 自分の座標系を、自分で立てるんだ。
── 村主、息を呑む。 ──
アインシュタイン これは、君の理論にも通じる話だろう。誰かが用意した座標の上で、誰かと比べて勝った負けたとやっているうちは、人は自由になれない。だが、自分の軸を自分で引いた人間は、もう誰とも比較されない。比較されない場所に立てるからだ。
村主 ……それは、ぼくの虚次元観測そのものです。
アインシュタイン そうかね。なら、四つ目の助言だ。──他人の物差しを捨てて、自分の座標を引きたまえ。それは利己的なことじゃない。それこそが、君が世界に貢献できる、唯一の場所だ。
第六幕 ── 博士からの、最後の手紙
村主 先生、最後に。もし先生が、現代に生きる若い人たちに、一通だけ手紙を書けるとしたら。何を書きますか。
── アインシュタイン、ペンを取り、しばらく考える。それから、ゆっくりと書き始める。 ──
──親愛なる、二十一世紀の友へ。
私の時代、人間は原子の力に出会った。君たちの時代、人間は知能そのものを外に取り出すことを学んだ。どちらも、人類にとって取り返しのつかない一歩だ。
だが、忘れないでほしい。新しい力が現れるたびに、人類は同じ問いを突きつけられる。──「私たちは、これを使うに値する存在か」と。
この問いから逃げないこと。これだけは、君たちに頼みたい。
AIは、君たちの代わりに答えてくれる。だが、君たちの代わりに「値する存在」になってはくれない。それは、君たち自身の、毎日の小さな選択の積み重ねの中にしかない。
どうか、急がないでほしい。どうか、深く呼吸してほしい。どうか、空を見上げる時間を取ってほしい。
そして、想像することを、決してやめないでほしい。
想像力は、知識より重要だ。これは、私の遺言の一部だと思って、受け取ってくれ。
アルベルト・アインシュタイン
── アインシュタインはペンを置き、村主に紙を差し出した。 ──
村主 ……持ち帰っても、よろしいですか。
アインシュタイン どうぞ。──ただし、ミスター・ユウマ。この手紙は、君のものではない。君が会う、すべての人のものだ。
エピローグ ── 板を、ポケットに戻す
対談を終えて、村主はスマートフォンをポケットに戻した。アインシュタインは、机の上の古いノートを開き、書斎の窓から外を眺めていた。
帰り際、村主は一度だけ振り返って聞いた。「先生は、AIを恐れていますか」と。
アインシュタインは、笑った。
“ I fear only one thing — that humans stop wondering. ”
──私が恐れているのは、ただ一つ。人間が驚くのをやめてしまうことだ。
村主は深く一礼し、書斎を出た。冬の光は、もう傾きかけていた。だが、彼の胸ポケットの紙片は、まだ温かかった。
── 編集後記
第三話で、博士は四つの助言と一通の手紙を、現代人に残した。情報を遮断する時間を持つこと。問いだけは自分で立てること。自分の経験を軽んじないこと。他人の物差しを捨てて自分の座標を引くこと。──そして、驚くことをやめないこと。これらは、AIの時代だからこそ、いっそう重みを増す言葉である。次回、二人は何を語るか。乞うご期待。
構成・文 ── ï.Media 編集部
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