虚次元アインシュタイン×虚次元村主悠真『虚時間の、その先へ』【虚次元対談企画 第二話 後編】アインシュタインは、虚次元をどう見るか
前回の対談から、一か月。村主は再びプリンストンの書斎を訪ねた。今日のテーマは一つ。アインシュタイン自身の研究を踏まえて、彼が「虚次元」という概念をどう評価するか、である。
机の上には、古いノートが何冊か積まれていた。背表紙に「Kaluza, 1921」とある。
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第四幕 ── 統一場理論の遺言
アインシュタイン 私は晩年の三十年を、統一場理論に費やした。同時代の若い物理学者たちは、私が量子論から逃げて、古い夢に閉じこもったと笑った。
村主 僕は、笑いませんでした。
アインシュタイン ありがとう。──だが、自分でも分かっていたんだ。私が探していたのは、たぶん、方程式ではなかった。私が探していたのは、世界を「一つにする視座」だった。
村主 視座。
アインシュタイン そう。式は手段に過ぎない。私は、重力と電磁気を一つの幾何で書きたかったんじゃない。本当は、「分かれて見えるすべてのもの」が、もともと一つだったと、自分自身に証明したかったんだ。
── アインシュタイン、窓の外を見る。 ──
アインシュタイン だから君の Z = D + iD を見たとき、私は妙に動揺した。あれは方程式の形をしているが、方程式じゃないからだ。あれは、視座の宣言だ。
村主 ……はい。
アインシュタイン そして、視座の宣言なら、私が三十年探し続けたものに、形の上では、よく似ている。
── 村主、思わず立ち上がりかける。 ──
村主 先生、それは──。
アインシュタイン 座りたまえ。最後まで聞け。──似ている、と言っただけだ。一致している、とは言っていない。私の統一場理論は、観測可能な物理量だけで世界を縫おうとした夢だ。君の虚次元は、観測の手前まで含めて世界を縫おうとする夢だ。出発点が違う。
村主 はい。
アインシュタイン だがなユウマ。──夢の方向は、似ているんだよ。
第五幕 ── アインシュタイン博士による虚次元への、暫定評価
村主 先生、率直にお聞きします。今日の話を踏まえて、僕の虚次元理論を、先生はどう評価されますか。
── アインシュタイン、長く考える。 ──
アインシュタイン 三つに分けて言おう。
村主 お願いします。
アインシュタイン 第一に、物理理論としては、まだ何も言えない。観測の手続き、反証の道筋、数式の整合性──物理として評価するには、君は道具を揃えていなさすぎる。これが厳しい現実だ。
村主 はい。
アインシュタイン 第二に、しかし、座標理論としては、興味深い。ミンコフスキーの ict を私が消したことへの、一つの応答になりうる。あるいは、カルツァの第五次元を、空間ではなく「存在の時相」の方向に拡張する試みとも読める。これは、純粋に思想として、価値がある。
村主 ……ありがとうございます。
アインシュタイン 第三に。──これは、私の個人的な感想だ。
── 少し声を落とす。 ──
アインシュタイン 私は晩年、自分が量子論に勝てなかったことを、ずっと考えていた。負けたのではなく、勝ち方が分からなかった。今日、君の話を聞いて、もしかしたらこういうことだったのかもしれないと思った。──私は、「実次元の中で」勝とうとしていたのかもしれない。本当は、もう一段、上の座標が必要だったのかもしれない。
村主 先生……。
アインシュタイン だから私は君の理論を、保証はしない。だが、捨てることもしない。物理の側からは厳しく問い続けるが、思想の側からは、君の歩みを見ていたいと思う。──こんなことを言える年齢になったのだな、私も。
エピローグ ── ノートの余白
対談を終えて村主が帰ろうとしたとき、アインシュタインは古いカルツァのノートを開き、最後のページの余白に何かを書きつけた。それを破って、村主に渡した。
“ ict was not a trick. ”
──ictは、ただの細工ではなかった。
村主は深く一礼し、書斎を出た。冬の光は、前回より少しだけ短く、しかし確かに、未来側へ伸びていた。
── 編集後記
第一話で出会った二人は、第二話で互いの仕事を持ち寄った。アインシュタインは ict、カルツァ、ボーア論争、統一場理論という自分自身の歩みを通して、虚次元という若い概念を測った。完全な賛同ではなく、しかし、否定でもない。この「保留」こそが、思想にとって最も誠実な態度かもしれない。次回、二人はさらに別の話題へ向かう。
構成・文 ・編集── 村主
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