虚次元アインシュタイン × 虚次元村主【特別記念 虚次元対談】第一弾前編
時代を越えた奇跡の対談がここに実現しました。
世界に最も影響を与えた人物の一人と言っても過言ではない、時間と空間を一つに縫い合わせた男。
もう一方は、その四次元の外側に、もう一つの次元を立てようとしている男。
舞台はプリンストン、書斎の片隅。窓の外には冬の光。机の上には、紙とペン、それから一杯の濃い珈琲。
第一幕 ── 「 i 」をめぐって
── アインシュタイン、ノートを閉じる。村主、対面に座る。 ──
アインシュタイン ようこそ、ミスター・ユウマ。遠い所をわざわざありがとう。日本から来た若い思想家が、私の方程式に「もう一文字」を足したがっていると聞きましたよ。それにしても世界中で学校の支援をしたり、ビジネスや投資やタレントさんみたいな活動も含めて、本当に多岐に渡る活動をしてるみたいですね。
村主 色々と事前に見て頂いていたみたいでありがとうございます。こんな機会を頂けて本当に光栄です。僕は学生時代はずっと数学と物理の世界で生きてたので、先生への純粋な憧れというか、学べば学ぶほど遠くなるというか、先生の頭脳への崇拝は今も変わりません。
アインシュタイン いやいや、崇拝はやめたまえ。私だって特許局で書類をめくっていた頃は、誰も振り向かない若者の一人だったよ。──だがね、ユウマ。今日ここに来た君は、もう数学と物理の世界の住人ではないらしい。世界中で学校を作り、事業をやり、それと同時に、私の方程式に文字を一つ足したいと言っている。この組み合わせが、私には珍しく見えたんだ。だから興味を持った。さあ、君の話を聞かせてくれ。
村主 先生の E=mc² は、僕は大好きな数式でして、敬意しかありません。その上で、僕が扱いたいのは、この式に登場するエネルギーや質量の外の世界なんです。
アインシュタイン ほう。というと?
村主 「存在しないもの」です。
アインシュタイン ……それは、物理ではないな。
村主 ええ。物理ではなく、座標の話です。先生は四次元時空を描かれたと思うんですが、僕はその外側にゲームを拡張したいんです。記号で言えば『i』虚数の i です。
── アインシュタイン、眉を上げる。 ──
アインシュタイン 虚数なら、私の方程式の中にもいるよ。ミンコフスキーが時間を ict と書いたのを、私も若い頃は使っていた。電磁波を複素数で書くのも、シュレーディンガーがあの方程式の頭に i を置いたのも、君も知っているだろう。
村主 はい。でも、それは「計算の道具」としての i だと思ってまして、僕が表現したいのが、非存在、非意味、非定義を載せる軸としての i です。
アインシュタイン ……ユウマ。私は今、二つのことを同時に感じているよ。一つは、それはもう数学の言葉ではないな、ということだ。非存在を載せる軸、というのは、カントが言った「物自体」に近い。哲学の領分の話だ。──だがもう一つは、好奇心だよ。君がそれを「軸」として扱おうとしているなら、何かの形を持っているはずだ。私はね、形のないものを語る人間は信用しない。だが、形を見せてくれる人間の話は、最後まで聞くことにしている。──軸として扱うのであれば、式はあるんだろう?

第二幕 ── Z = D + iD
村主 僕の式はシンプルです。 Z = D + iD 。 D は実次元、つまり先生が描かれた世界。iD はその外側、まだ顕在化していない次元。Z はその総和。
アインシュタイン それは影とは違うのかね。プラトンの洞窟を思い出すが。
村主 近いです。ただプラトンは「実在は向こう側にある」と言った。僕は逆で、「向こう側こそ、これから生まれる場所」だと考えています。過去ではなく、未来側のイデア、と言ってもいい。
アインシュタイン おもしろい。だがユウマ、観測できないものを語るのは危険だよ。私自身、それで量子力学と長く喧嘩したのは知ってるだろ。
村主 はい。だから僕は、観測そのものを再定義しています。「ï 観測」とは、対象を見ることではなく、対象が立ち上がる座標を、人間の側に用意することだと。
アインシュタイン ……座標を、用意する。
村主 先生が一般相対性理論で、時空そのものを曲げてみせたように。
── アインシュタイン、しばらく沈黙。 ──
アインシュタイン それは、詩なのか、科学なのか。それとも他の何かかね。
村主 どちらでもあります。そして、どちらでもありません。
第三幕 ── 神はサイコロを振るか
アインシュタイン 有名な話だが、私は「神はサイコロを振らない」と言った。今でも、それは半分本気だ。君はどう思うかね。
村主 僕は、神はサイコロを振らないと思います。ただし、サイコロを振っているように見える理由は、僕らが「振られる前の盤面」を見ていないだけだと考えています。
アインシュタイン ……盤面、というのは。
村主 虚次元です。実次元の対局に存在する次元、別の表現で言うと、実次元座標に直交する次元、それをぼくは虚次元と定義しています。
アインシュタイン ……それは、ガウスの複素平面に似ているな。実軸の上に虚軸を直交させる、あの図だ。リーマンも、複素関数を二次元平面に展開して仕事をした。だがユウマ、ガウスやリーマンが使った虚軸は、あくまで「数」の世界の話だった。君のそれは、数の話ではなく、存在の話だね。──同じ「直交」という言葉で、まるで違うものを指している。ここが厄介なところだ。続けたまえ。
村主 確率に見える現象は、虚次元側ではすでに織り込まれています。全可能性空間としての虚次元と僕は定義してるんですが、決まってるけど決まってない。何もないんですが全てがある。具現化とか意味性とかの反対にある。それを軸上に定義するという矛盾すらも内包する、それが虚次元軸です。
アインシュタイン ……ユウマ。君は気づいているかね。今、君が言ったことは、私が一番嫌がっていた話に、限りなく近いんだよ。ボーアだ。ボーアは「観測されるまで状態は重ね合わさっている」と言った。決まっているのに、決まっていない。私はそれが我慢ならなかった。──ところが君は、それを「次元として軸の上に乗せる」と言う。ボーアは重ね合わせを観測の前に閉じ込めたが、君はそれを次元軸として常駐させようとしている。私の最大の論敵に、君は別の角度から接近しているんだよ。皮肉なものだな。
アインシュタイン ところで、その流れで一つ聞かせてくれ。決定論と自由は両立するのか。
村主 両立します。決定されているのは「可能性の地形」であって、「どの道を歩くか」ではない。地図はある。歩くのは人間です。「決定」という言葉に対する見解の相違と言えなくもないですが。
── アインシュタイン、笑う。 ──
アインシュタイン 面白いね。ただそれは、若い頃の私が聞いたら、きっと議論を吹っかけただろうな。
村主 それ以上の幸せは、ありません。
構成・文・編集 ── 村主
第一章後編に続く。
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