情報の非対称性という、人間の認知における制限の主因
あのとき、なぜあの選択をしたのだろう。後から振り返って、そう思うことがあります。
その原因の一つに情報の非対称性があります。
情報の非対称性があまりにも大きく、そのせいで本人にも説明のつかない判断をさせられていることがあります。
お金の稼ぎ方においても、数々の選択の分岐点にて、時間配分においても、命をどう使うかも含めてです。
では、判断の大本にあるものはなんなのか。今回はそこに迫ります。
「謎の判断」は、情報の非対称性から生まれる
情報の非対称性とは、判断や取引に関わる当事者のあいだで、持っている情報の量や質に偏りがある状態のことだ。経済学者アカロフが1970年の論文で中古車市場を例にこの構造を示し、のちにノーベル経済学賞を受けたことでこの言葉も一般的に使われるようになった。
今回は市場の話を超えて、人生という人間のテーマに転用してみたい。
世界がどう動いているのかをどこまで認識できるか。
どの水準の人間が、いま何を考えているのか。その情報を持つ側と持たない側では、同じ状況に置かれても、まったく違う判断が出てくる。
ここで大事なのは、情報を持たない側の判断が、必ずしも愚かではないという点だ。ハーバート・サイモンは、人間の合理性は手持ちの情報と処理能力の範囲内でしか働かないと考え、これを「限定合理性」と呼んだ。後から見れば謎の判断も、その時点の情報の内側では、きちんと合理的だったのである。
── 変えるべきは、努力ではなく入力
判断の質を上げたいなら、考え方を鍛える前に、そもそも入ってくる情報の水準を変える必要がある。価値判断の大本から出てくる情報や感覚が、行動を狭めたり広げたりしている。大本が変わらない限り、どれだけ頑張っても、出てくる判断の射程は変わらない。
追求すると、情報のほうが導いてくれる
ただこれは「情報を得たから視座が上がった」だけではない。先に、追求し続ける姿勢がある。その姿勢が視座をつくり、その視座がまた新しい情報を引き寄せ、次の場所へと導いてくれる。
パスツールは「観察の領域において、偶然は準備された心にのみ味方する」と書いた。同じ情報が目の前を通り過ぎても、それを拾えるのは、拾う構えのある人間だけだ。情報は、追求する者のところへ集まるようにできている。
── 日々何を考えているかを盗む
哲学者マイケル・ポランニーは「我々は語ることができるより多くのことを知っている」と言っていて、言葉にしきれない知を「暗黙知」と呼んだ。本当に価値のある部分は、マニュアルにはならない。近くで触れ続けることでしか、移らない。
受け取ったあとが本番になる
未来の話も、長期計画も、世界における自分のポジショニングの話も、もちろん重要だ。
だが結局は、それを自分の脳にどう移植し、そこで新たな細胞分裂が起こるきっかけにできるか、ということに尽きる。脳は経験に応じて回路を組み替え続ける。神経可塑性と呼ばれるこの性質がある以上、受け取り方次第で、思考は何歳からでも作り直せる。
── 座標軸を、もう一度組み直す
誰にでも、ほとんど考えないまま形成された座標軸がある。どこまでを自分の範囲とみなすか、何を無理だと感じるか。その多くは、今まで触れてきた情報の総和にすぎない。
この視座メディアを始めとした村主が発信するプロジェクトなども、みなさんの視座を再構築するきっかけにしてほしい。自分が設定している範囲を、どこまで破壊することができるか。
ビジネスでも、世界平和でも、慈善活動でも、思想でも、瞑想でも、スポーツでも、エンタメでも、アートでもいい。この領域は本当にやるんだ、という人は、是非絡んできてほしい。
さらに深く知りたい方へ
この記事で扱った「座標軸」や「射程」は、視座を原点・軸・射程からなる座標として捉え、その移動の力学を論じた論文の中心概念です。
「視座の座標構造論」(第七論文) 村主悠真(i.Institute)

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よくある質問
判断や取引に関わる当事者のあいだで、持っている情報の量や質に偏りがある状態のことです。経済学者アカロフが中古車市場を例に示したことで広く知られるようになりました。
人の合理性は手持ちの情報の範囲内でしか働かない「限定合理性」があるためです。その時点の情報の内側では、判断はきちんと合理的だったと言えます。
考え方を鍛える前に、入ってくる情報の水準を変えることです。追求し続ける姿勢が視座をつくり、その視座がまた新しい情報を引き寄せます。


